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仮想通貨の価値の本質
ビットコインキャッシュは、ビットコインの抱えるスケーラビリティ問題(後述)を解決すべく、2017年8月1日、478,558番目のビットコインのブロックで発生したハードフォークによって誕生した、ビットコインとは異なる完全に別の仮想通貨です。
誕生した当初は思うようにマイニングもされず、なかなか価値が高まりませんでしたが、米国取引所最大手のcoinbaseが取り扱いを決めたり、その価値に気付き始めた人の買いが入ったりと好材料が次々と発生しました。
取引量も常に上位に位置するようになり、今となってはイーサリアムやリップルと並んでメディアを賑わせる存在になっています。
一方で、いわゆるハードフォーク需要やマイナー達のエゴなど、サトシが目指していた経済合理主義的な通貨としての本来の存在価値とは違う論点が目立つようにもなりました。
この記事では、ビットコインのスケーラビリティ問題を中心に、ビットコインキャッシュが誕生した背景、そして改めて、ビットコインとビットコインキャッシュの今後の決済通貨としての展望を考察していきたいと思います。
皆さんが、ビットコインやビットコインキャッシュのことを正しく理解し、非中央集権的な通貨であることの本質を再認識し、マイナーや、一部の発言に影響を持つ人たちの意見だけに流されないための一助となれば幸いです。
ビットコインのスケーラビリティ問題
ビットコインキャッシュを理解するには、ビットコインのスケーラビリティ問題を必ず理解する必要があります。
なぜなら、ビットコインキャッシュはビットコインのスケーラビリティ問題を解決するために生まれた通貨だからです。
ビットコインの決済通貨としての価値
スケーラビリティ問題に触れる前に、まずは簡単にビットコインについておさらいしておきます。
これだけ世間の注目を集めている割に、あまり理解が進んでいないように感じますので。
ビットコイン取引の承認はリアルタイムに行われているのではなく、ハッシュレートによる制御で約10分に1度行われています。
承認された取引はブロックチェーンに記録されていくのですが、そのブロックチェーンを形成する1つ1つのブロックの取引データ格納上限は、約1MBに設定されています。
よくビットコインのブロックサイズは1MBで決められているとの記述を目にしますが、これは間違っています。
実際にビットコインのブロックチェーンを見ればわかるのですが、1ブロックのデータ格納量が1MBを超えていることはよくある事象です。

注:bitFlyer社の提供するブロックチェーン可視化サービス”chainFlyer”
加えて、ビットコイン取引の承認時間に関しても、10分に1度と決められているとの記述もよく目にしますが、これも間違っています。
ハッシュレートによって、”結果的に”約10分に1度になるように制御されているというのが正しいです。
なぜこのような仕様になっているかはProof of Workというアルゴリズムが関係しています。 技術的な話になるため、また別の機会に解説したいと思います。
少し横道にそれましたが、このような仕様のために決済通貨としての価値が薄れてしまっているのです。
それでは、なぜ決済通貨としての価値が薄れているのかを次で説明していきます。
ビットコイン取引の承認が約10分に1度であることの問題点
先ほど、ビットコイン取引の承認は約10分に1度行われていると説明しましたが、じゃあその約10分の間に取引されたビットコインは承認されるまでどうなっているの?という疑問が浮上するかと思います。
実はビットコインはすぐにはブロックに取り込まれず、一時的にトランザクションプールという待機場所に保管されているのです。
この状態を店舗での支払いに置き換えて考えてみます。
昨年、家電量販店での購買や電気代の支払いにビットコイン決済が導入されるといった事例がありました。
そこで例えば、あなたが家電量販店でカメラを買うために、1ビットコインを支払ったとします。
ビットコイン取引は約10分間ブロックに取り込まれない(=取引として成立しない)ため、家電量販店側は厳密にはその場で支払い代金を受け取ったことにはならないのです。
家電量販店側はお客さんをその場で約10分待たせるわけにもいかないため、当然、普段の法定通貨(円やドルなど)での支払いと同じように「ありがとうございました〜またお越しくださいませ〜」となるわけです。(お店によってはその場で約10分お待ちください、となる可能性もゼロではありませんが...)
しかし、ビットコイン取引はブロックに取り込まれてはじめて正しい取引であったといえるため、ビットコイン決済を導入している店舗はリスクを背負うことになります。
これがビットコインの決済通貨としての価値が薄まる1つの理由です。
ビットコインのブロックサイズが約1MBであることの問題点
次に、ビットコインのブロックサイズが約1MBであることの問題点についてです。
ちなみに、ビットコインキャッシュの誕生背景は主にこちらの問題を解決することにあります。
ビットコインはブロックサイズが約1MBであることにより、計算上は1秒間に約7取引しかさばけないことになります。
比較対象として、決済手段でメジャーなクレジットカードは、1日に約4~5億もの取引をさばいているといわれており、1秒間に約4500もの取引をさばけることになります。
よく、ビットコインはクレジットカードの20分の1の取引しかさばけないとの記述も目にしますが、計算上は20分の1どころではないように思えます。
ビットコインが誕生してすぐは問題視されていなかったのですが、ビットコインの認知が高まるにつれて取引量が増えたことで、約1MBのブロックサイズでは取り込めない取引が発生するようになってしまいました。
ただでさえ約10分に1度しか取り込まれないのに、このブロックサイズの問題により余計に取引が承認されないようになってしまったのです。
実際に、記事執筆時点でビットコイン取引をしようとすると、取引承認までに1時間以上かかる見込みであると表示されます。

注:著者の使用しているウォレットより
これが、ビットコインのスケーラビリティ問題です。
決済通貨として価値を高めていくには、規模を拡大する(=スケールする)必要があると考えればわかりやすいでしょうか。
スケーラビリティ問題への対応
このスケーラビリティ問題、実はかなり前から議論が交わされてきました。
通貨である以上、決済に使用できない可能性が高いというのは相当深刻な問題だからです。
そして、ビットコインが誕生して9年が経とうとした昨年、ついに具体的な動きがありました。
それがビットコインキャッシュの誕生です。
ブロックサイズの拡張とSegwit
ビットコインのスケーラビリティ問題の解決策として、約1MBであるブロックサイズの拡張が提案されました。
ブロックサイズが小さいから大きくする、これは理にかなった提案ですよね。
その他にもう1つ、Segwitという技術の適用も提案されました。
少し補足しておくと、ビットコインは発明者はいるものの、明確な管理者はいません。
ビットコインの改良には世界中の多くの有識者が集まって議論し、みんなで方針を決定してみんなで開発しています。
そのため上記のような提案が日々行われているわけです。
わかりやすく説明するために結論から言いますが、ビットコインはブロックサイズの拡張はせず、Segwitを適用させました。
一方のビットコインキャッシュはSegwitは適用させず、ブロックサイズを約8MBに拡張しました。
今から順を追って説明していきます。
ブロックサイズの拡張
先ほども言及しましたが、ブロックサイズが小さいから大きくする、これは当然の対策のように思えますよね。
しかし、ビットコインが約8年もの間、そして未だにこの選択をしていないのには、コンピュータ性能の限界が影響しているといわれています。
仮に、クレジットカードと同等の取引量をさばける程度までブロックサイズを拡張した場合、1日に約130GBのブロックデータが生成されます。
ビットコインは非中央集権(個人の集まり)によって管理されているため、それぞれ年間で約47TBもの容量を消費する計算になるのです。
記事執筆時点で、ビットコインを管理しているコンピュータの数は1万台を超えているため、仮に今後も1万台のままだとしても合計で約520PBもの膨大なデータが毎年蓄積されていくことになります。
これは現状のコンピュータ性能では到底無理なデータ量です。
しかし、ムーアの法則に従うとこれは可能になるという意見もあります。

注:”GLOBAL BITCOIN NODES”は世界中に散らばっている
ビットコイン管理するコンピュータの状況を教えてくれる
ビットコインがブロックサイズの拡張を選択しなかったのに対して、ビットコインキャッシュはブロックサイズを拡張しており、今後も継続して拡張していくと発表しています。
ブロックに格納するデータ量を圧縮する「Segwit」
ブロックサイズを拡張するという提案に対して、ブロックに格納するデータを圧縮してから格納すればいいのではないか?という提案がSegwitです。
外を広げるのではなく中を小さくするというイメージを持っていただければわかりやすいかと思います。
Segwitが適用されていない状態のブロックに格納されている取引データの中身は、大きく分けて以下の3つになります。
- 取引の送信元の情報
- 取引の送信先の情報
- 取引に付与される電子署名
このうち、③の電子署名を取引データから切り出して、ブロックに格納しないようにするというのがSegwitの概要です。

このSegwitを適用することで、ブロックサイズは約1MBのまま、最大約4MBのデータを格納できるようになったといわれています。
ビットコインキャッシュの誕生
ブロックサイズの拡張とSegwit、複数の解決策がある中で、非中央集権であるがためにどの解決策を選択するか、意見が対立しました。
そうして生まれたのがビットコインキャッシュです。
ビットコインキャッシュの詳細については、既によくまとまっている記事が見受けられましたのでここでは触れませんが、ビットコインはSegwitを選択、ビットコインキャッシュはブロックサイズの拡張を選択、という違いがあります。
両者の違いはブロックサイズの違いであるとの記述をこれまたよく目にしますが、本質的にはブロックサイズではなく、その根本にある選択肢の違い(Segwitなのかブロックサイズ拡張なのか)であるということを理解しておいてください。
なぜ意見が対立したかについては、ビットコインの本来の思想からかけ離れた思惑が働いていると考えられるため、ここでは簡単な説明に留めておきます。
取引の承認をするためにマイニングが行われていますが、そのマイニングをするためのコンピュータの性能は日に日に良くなっています。
その中でも特にASICというタイプが、現状は最も優れたコンピュータです。
そのASICを使用する際に、一部でASIC BOOSTというマイニング速度を向上させる手法が使用されていたことが判明しました。
しかし、Segwitが適用されるとこのASIC BOOSTが使えなくなるとのことで、マイナーはSegwitの適用に反対していたといわれています。
つまり、ASIC BOOSTを使用していた一部のマイナー達の優位性が失われるということになります。(本質的にはこの優位性は存在してはいけないものです。)
何度も言いますが、ビットコインは非中央集権であるため、意見がまとまらないと仕様を改良することができません。
そのため長年の間、このスケーラビリティ問題に動きがありませんでした。
しかし、痺れを切らした一部の開発者がハードフォークを実施することで、この問題が一旦の終幕を迎えることになったのです。
ビットコインとビットコインキャッシュは異なる存在価値を持つ
以上が、ビットコインのスケーラビリティ問題の概要です。
ビットコインキャッシュはビットコインのスケーラビリティ問題の解決策として誕生したということだけでも知っていると、今後の仮想通貨関連の動向を理解しやすくなると思います。
ビットコインとビットコインキャッシュは誕生背景や名称からほとんど同じものとして語られることが多いです。
しかし、両者は全くの別物であり、それぞれ異なる存在価値を有していると考えられます。
筆者の個人的な見解ですが、ビットコインは、そのドミナンス(流通している仮想通貨全体に占める当該通貨の割合)の高さからデジタルゴールドとしての価値、すなわちストック型の価値を持っていると考えています。
一方のビットコインキャッシュは、送金・決済通貨としての価値、すなわちフロー型の価値を持っていると考えています。
決済通貨としての側面では、現状はビットコインキャッシュが優れていると思います。
ただ、あくまで現状は、という話です。
稀に、ビットコインも開発を進めれば決済通貨として成り立つ、ビットコインキャッシュもビットコインと同じ発行上限なんだからデジタルゴールドとして成り立つ、という意見を耳にします。
それは一理あると思っています。
ただ、ここ数年は様々な人の思惑やポジショントークが飛び交っており、そういった人たちの影響を受けざるを得ない状況にもなってしまっているのが現状です。
筆者は別々の価値を持った資産として、異なる方針で進んでいけばいいと思っています。
その上で、より多くの改良を加えた方が存在価値を高めることができるのではないでしょうか。
これはビットコインやビットコインキャッシュだけの話ではありません。
中身の伴ったプロダクトが正しい評価を受けられるように、うわべだけのプロダクトが淘汰されるように、今後はそういった方向へ流れるように、微力ながら貢献していきたいと思います。